巨大な霊鳥として描かれるシームルグ
世界の神話の中ではそこまでメジャーではないイラン神話ですが、その中に登場するシームルグと言う巨大な鳥だけは割と人気があります。
認知度もそれなりに高く、現在では主にゲームなどのエンターテイメントの中にもその姿を見ることが出来ますね。
シームルグは、時にシムルグやシーモルグとも発音されますが、概ね巨大な霊力のある鳥として描かれる事が多いです。
この付近の地域では、昔からアラビアのロック鳥や妖鳥ルフ等規格外に大きい鳥にまつわ伝承も多いですね。
旧約聖書にはジズと呼ばれる陸海空の内、空を司る巨大な動物のエピソードも登場しますが、この様に特定の鳥を神聖視する傾向があったんではないかと思います。
では一体シームルグとはどのような生物なんでしょうか。
アルボルズ山に住む巨大な鳥
イランの北部に位置するアルボルズ山に住み、寿命は1700年にも及ぶと言います。
生まれてから300年で卵を産み、その卵が羽化するまでにかかる期間はこれまた壮大な250年とも言われていますね。
興味深い伝承として、この生まれた雛鳥が大きくなり、成鳥になると元の親鳥は自ら火に飛び込んで命を絶つと言われています。
このデイティールは、プリニウスの博物誌で描かれたフェニックスの特徴と一致していますね。
そもそもシームルグの羽にはあらゆる病気を治療する効果があり、これが後の伝承にも大きく関わってくる事になります。
色々調べていて気が付いたのは、シームルグ自体は何の鳥の種類か語られていないと言う部分ですね。
鷲なのか鷹なのか、それ以外の鳥なのか、もしくはシームルグは単体の種類として考えられていたのかもしれません。
後に描かれた物語の挿絵を見る限りは、それは見事な色遣いでカラフルに描かれていますが、種類まで断定するには至りませんね。
シャー・ナーメに登場するザールとシームルグ
時代が下り、10世紀頃に書かれた民族叙事詩「シャー・ナーメ」に登場する逸話が有名な様です。
ここにはシームルグの他に、後のイランの英雄となるザールと言う人物についても事細かに描かれているんですね。
それによると、生まれたばかりのザールは、不吉の象徴でもあった白髪を持っていたためにすぐに捨てられてしまいます。
ザールの父親はサームと言う人物でしたが、後にこの時の事を後悔するようになります。
その捨てられていたザールを見つけ、自分の雛鳥と同じく育てたのがシームルグです。
雛鳥に与えるのと同じ食料を分け与え、飲み物としてシームルグ自らの血液を与えたと言われています。
そうして育ったザールは、父親のサームと見事に再開を果たします。
こうして無事人間界に戻る事になったザールに手向けとして、シームルグは自分の羽を一枚渡し、「困った時はこの羽を焼きなさい」と教えます。
シームルグの羽の驚異的な治癒力
その後妻を娶ったザールですが、困った事に妊娠した妻のお腹からは臨月になっても子供が出てきませんでした。
悩んだ挙句、昔シームルグにもらった例の羽を焼いてみます。
すると、煙の中からシームルグが現れ、いますぐ帝王切開するように助言します。
言われたとおりにお腹を切って子供を無事取り出すと、その傷口を羽で撫でる様に言います。
果たして言われたとおりにザールが妻のお腹を羽で撫でると、切り開いたお腹は綺麗に傷も無く元通りに戻ったと言います。
この時生まれた子はロスタムと名付けられ、立派な青年に成長しますが、今度は好敵手イスファンディヤールが登場します。
ロスタムは戦いの末にこのイスファンディヤールに負けて傷を負ってしまいますが、この時も再度ザールはシームルグの羽を燃やしています。
すると、またも煙の中からシームルグが現れ、ロスタムの傷を癒すとともに、一本の矢を与えて去っていきます。
その後、その矢で見事にイスファンディヤールを打ち取る事に成功したと言う伝承が残っていますね。
この一連の傷を治す部分が、シームルグの羽には治癒の効果があると言う逸話となって広まったんだと言えるでしょう。
近隣諸国にはエジプトのフェニックスの他に、アラビアのアンカや、スラブ圏のセマルグルと名を変えたシームルグの姿を見ることが出来ます。
当時の中東から始まったこの巨鳥伝説は、およそ世界の半分ほどまで名を変えて広まったと言えるでしょう。
[当記事の著作権はhttps://chahoo.jp/に帰属します]2016/08/26当記事の無断転載は禁止しています。