エレベーターゲームとは?──「異世界へ行く儀式」の都市伝説と、セシルホテルの悲劇が結びついた理由

エレベーターに一人で乗り、決められた順番でボタンを押していくと、いつのまにか「別の世界」へ迷い込んでしまう——。「エレベーターゲーム」は、そんな不気味なルールで知られるネット発の都市伝説です。

この伝説は、2013年にアメリカで起きたある出来事をきっかけに、世界中へ広まりました。この記事では、エレベーターゲームのルールと起源、そしてこの都市伝説がなぜ実在のホテルの悲劇と結びついてしまったのかを、確かな記録に基づいて整理します。最初にお伝えしておくと、これはあくまで「創作された都市伝説」であり、実際に試すべきものではありません。

エレベーターの階数ボタンのイメージ
決められた順にボタンを押す——それがエレベーターゲームの「儀式」とされています(イメージ画像|Yoh-Plus, CC BY 4.0)

エレベーターゲームとは──ひとりで乗り、異世界へ向かう「儀式」

エレベーターゲームとは、特定の手順でエレベーターのボタンを押すことで「異世界(別次元)」へ行けるとされる、儀式めいた都市伝説です。韓国や日本のネット掲示板を中心に広まり、やがて世界中の「やってはいけない遊び」として知られるようになりました。

似たような伝説に「こっくりさん」や「ひとりかくれんぼ」がありますが、エレベーターゲームの特徴は、身近な「エレベーター」という装置を使う点にあります。誰もが日常的に乗る乗り物が、手順ひとつで異界への入口になる——その手軽さと不気味さが、多くの人の想像力をかき立てました。

遊び方(ルール)──押す階の順番と、5階の「彼女」

ネット上で広く語られているルールは、おおよそ次のようなものです。ただし、細部にはさまざまなバリエーションがあります。

まず、10階以上ある建物のエレベーターに、必ず一人で乗ります。そして1階から出発し、「4階→2階→6階→2階→10階→5階」の順にボタンを押して移動していきます。問題は5階です。ここで、見知らぬ女性が乗り込んでくることがあるといいます。伝説では、この女性に決して話しかけてはいけない、目を合わせてもいけない、とされています。なぜなら「彼女は人間ではない」からだ、というのです。

エレベーターの内部のイメージ
ひとりきりのエレベーターが、非日常への装置に変わるという設定です(イメージ画像|Edward Orde, CC BY-SA 4.0)

「異世界」の光景と、戻ってくるための手順

5階でそのまま1階のボタンを押し、もしエレベーターが下ではなく最上階の10階へ上がっていったら——それが「異世界」に入ってしまった合図だとされます。

その世界は、電子機器がまったく使えず、あたりは暗く、窓の外には赤い十字の光だけがぼんやり見える、という描写が定番です。そして、この世界から戻るには、来たときと同じ手順を逆にたどらなければならないといわれています。さらに、必ず元の階と同じ場所に戻ってくること、途中で降りないこと、といった「注意事項」まで細かく語られているのが、この伝説の特徴です。物語としてよくできているからこそ、多くの人が惹きつけられたのでしょう。

起源は2008年ごろの日本、韓国で拡散した2010年前後

エレベーターゲームの起源は、意外にもそれほど古いものではありません。最も早い言及は2008年ごろの日本のネット上だとされ、その後、韓国の大手ポータルサイト「Daum」や「Naver」で2010年から2011年にかけて広まりました。確認できるもっとも古い記録のひとつは、2010年7月のDaumのブログだといわれています。

つまりこの伝説は、比較的最近に、インターネットを通じて国境を越えて育っていった「デジタル時代の怪談」なのです。そして、この物語が英語圏を含む世界中へ一気に拡散する決定打となったのが、2013年に起きた、ある痛ましい出来事でした。

都市伝説を決定づけた、2013年セシルホテルの出来事

その舞台となったのが、アメリカ・ロサンゼルスのダウンタウンにある「セシルホテル(Cecil Hotel、当時の別名Stay on Main)」です。

2013年、このホテルに滞在していたカナダ人の女子学生、エリサ・ラムさん(当時21歳)が行方不明になりました。2月13日、警察が捜索の手がかりとして、ホテルのエレベーター内の防犯カメラ映像を公開します。そこには、彼女が一人でエレベーターのボタンを次々と押したり、外の様子をうかがったりする、不可解にも見える約2分半の様子が映っていました。この映像はまたたく間に世界中で拡散し、大きな話題となりました。

セシルホテルの外観
ロサンゼルスにあるセシルホテル。数々の出来事の舞台となった実在のホテルです(Jim Winstead, CC BY 2.0)

事件の真相──検視当局が出した結論

その後、2013年2月19日、エリサ・ラムさんはホテル屋上にある貯水タンクの中で、遺体となって発見されました。宿泊客から「水の出が悪く、色もおかしい」という苦情が寄せられ、点検に向かった従業員が発見したのです。

建物の屋上に設置された貯水タンクのイメージ
建物の屋上に置かれた貯水タンク(イメージ画像|Kritzolina, CC BY-SA 4.0)

この痛ましい出来事について、ロサンゼルス郡の検視当局は慎重な調査を行い、死因を「事故による溺死」と結論づけました。彼女が双極性障害を抱えていたことが、大きく影響した可能性があるとされています。遺体に外傷はなく、暴行を受けた形跡も、薬物の反応もありませんでした。つまり、これは超常現象でも事件でもなく、ひとりの若い女性が病と不運のなかで命を落とした、悲しい事故だったのです。エリサさんのご冥福を、心よりお祈りします。

なぜ、二つは結びついてしまったのか

では、なぜこの実在の悲劇が、エレベーターゲームという都市伝説と結びついてしまったのでしょうか。

理由は、公開されたエレベーター映像が、エレベーターゲームの「ルール」を思わせる動きに、たまたま見えてしまったからです。ボタンを何度も押し、誰かに怯えるようなしぐさを見せる——その姿が、ちょうど広まりつつあった伝説のイメージと重なってしまいました。そこに、セシルホテルがもともと過去にいくつもの事件の舞台になってきた建物だったこと、後にこの一件がドキュメンタリー番組でも取り上げられたことなどが加わり、「あの映像は異世界への入口だったのでは」という噂が独り歩きしていったのです。

けれども、繰り返しになりますが、彼女の死因は検視によって事故と結論づけられています。都市伝説と現実の悲劇は、あくまで別のものとして切り分けて考える必要があります。

都市伝説として楽しむために──絶対にやってはいけないこと

エレベーターゲームは、物語としてはよくできた、興味深い現代の怪談です。けれども、絶対に実際に試してはいけません。

エレベーターは多くの人が共有する大切な乗り物であり、意味もなく全階のボタンを押す行為は、他の利用者や建物に大きな迷惑をかけます。ましてや、伝説を真に受けて立ち入り禁止の屋上などに入ろうとすれば、命に関わる重大な事故につながりかねません。エリサ・ラムさんの一件が私たちに教えてくれるのは、「異世界の恐怖」よりもむしろ、現実の危うさや、心の健康を守ることの大切さなのかもしれません。

都市伝説は、あくまで画面の内側で、想像を楽しむもの。その一線だけは、しっかりと守っていただければと思います。