ヴォイニッチ手稿とは?600年間誰も解読できない「世界で最も謎めいた書物」の全貌

最終更新日 2時間 ago by OKAYAMA

世界には数多くの未解決ミステリーが存在しますが、「解読できない本」というジャンルにおいて、右に出るものはないでしょう。それがヴォイニッチ手稿(Voynich Manuscript)です。

約240ページにわたって、見たこともない文字がびっしりと書き込まれ、この世に存在しない植物や、意味不明な天文図、裸の女性たちが緑色の液体に浸かる奇妙な挿絵が描かれています。15世紀に作られたこの写本は、600年以上にわたって世界中の暗号学者・言語学者・歴史学者を悩ませ続けてきました。

第二次世界大戦で敵国の暗号を解読した天才たちですら、この手稿の前では手も足も出なかったのです。

今回は、この「世界で最も謎めいた書物」の全貌に迫ります。

ヴォイニッチ手稿の植物セクション
ヴォイニッチ手稿の植物セクション。実在しない植物が描かれている(引用元:Wikimedia Commons / Yale Beinecke Library / Public Domain)

ヴォイニッチ手稿の基本情報――どんな書物なのか

ヴォイニッチ手稿は、羊皮紙(ヴェラム)に手書きされた写本です。サイズは縦23.5cm×横16.2cm×厚さ5cmで、現存するページは約240ページ。ただし、少なくとも28ページが失われていると考えられています。

最大の特徴は、全編が未知の文字体系(「ヴォイニッチ文字」と呼ばれます)で書かれていることです。アルファベットでもなく、アラビア文字でもなく、漢字でもない。既知のどの言語とも一致しない独自の文字が使われています。

文字は左から右へ流れるように書かれ、単語間にはスペースがあります。一見すると「意味のある文章」のように見えますが、数百年にわたる研究でも、その内容は一文たりとも確定的に解読されていません。

現在、この手稿はアメリカ・イェール大学のバイネキ稀覯本・手稿図書館に「MS 408」として所蔵されており、デジタルデータとして全ページがオンラインで公開されています。

ヴォイニッチ手稿の植物ページ
ヴォイニッチ手稿の植物ページ。青と赤の花のような植物が精緻に描かれている(引用元:Wikimedia Commons / Yale Beinecke Library / Public Domain)

羊皮紙の年代測定――作られたのは15世紀初頭

アリゾナ大学の研究チーム(Greg Hodgins博士ら)が羊皮紙の放射性炭素年代測定を実施し、2011年にその結果が発表されました。その結果、羊皮紙が作られたのは1404年から1438年頃であることが判明しています。

ただし注意が必要なのは、これは「羊皮紙が作られた時期」であって、「文字や絵が書かれた時期」とは限らないということです。理論上は、古い羊皮紙に後世の人物が書き込んだ可能性もあります。しかし、使用されたインクの分析や絵の特徴から、実際の執筆時期も15世紀中であるという見方が有力です。

つまり、この手稿は約600年前に作られた本物の中世の文書であることがほぼ確実とされています。「近代の偽造品」という説は、この年代測定によって大きく後退しました。

ヴォイニッチ手稿の羊皮紙ページ
羊皮紙に描かれた植物の図。2011年の放射性炭素年代測定で15世紀初頭の作と判明した(引用元:Wikimedia Commons / Yale Beinecke Library / Public Domain)

5つのセクション――植物・天文・生物・薬草・レシピ

ヴォイニッチ手稿の内容は、挿絵の特徴から大きく5つのセクションに分類されています。

1. 植物セクション(Herbal)
全体の約7割を占める最大のセクションです。各ページに1種類の植物が大きく描かれ、その周囲にヴォイニッチ文字の説明文が添えられています。しかし、描かれた植物のほとんどが実在する植物と一致しません。植物学者が長年にわたって同定を試みてきましたが、確実に特定できたものはごくわずかです。中世の植物図鑑とは明らかに異なる、架空ともいえる植物が並んでいます。

ヴォイニッチ手稿の植物の詳細
植物セクションの詳細。既知の植物とは一致しない独特の描写(引用元:Wikimedia Commons / Yale Beinecke Library / Public Domain)

2. 天文・占星術セクション(Astronomical)
円形の図表が多く、黄道十二宮(星座)を思わせるシンボルが確認されています。太陽や月、星のような図形も見られますが、既知の天文図とは構成が異なります。占星術的な要素と天文学的な要素が混在しているようにも見え、解釈は定まっていません。

ヴォイニッチ手稿の天文図
天文・占星術セクションの円形図。黄道十二宮を思わせるシンボルが描かれている(引用元:Wikimedia Commons / Yale Beinecke Library / Public Domain)

3. 生物セクション(Biological)
最も奇妙なセクションです。裸の女性たちが緑色や茶色の液体に浸かっている図が多数描かれています。女性たちは管のようなもので互いにつながっていたり、液体の流れる複雑なネットワークの中にいたりします。入浴の場面とも、人体内部の循環システムの図解とも解釈されていますが、確かなことは分かっていません。

ヴォイニッチ手稿の生物セクション
生物セクション。裸の女性たちが緑色の液体に浸かり、管でつながれた奇妙な図が描かれている(引用元:Wikimedia Commons / Yale Beinecke Library / Public Domain)

4. 薬草セクション(Pharmaceutical)
植物の部位(根・葉・花)が拡大して描かれ、その横に壺や容器のような図が並んでいます。中世の薬草学書に似た構成であることから、何らかの薬の調合に関する記述ではないかと推測されています。

ヴォイニッチ手稿の薬草セクション
薬草セクション。植物の根や部位が拡大して描かれ、左に壺や容器のような図が並ぶ(引用元:Wikimedia Commons / Yale Beinecke Library / Public Domain)

5. レシピセクション(Recipes / Stars)
手稿の最後にあたる部分で、挿絵はほとんどなく、短い段落に分けられた文章が続きます。各段落の冒頭に星のような記号が付いており、調合法やレシピのようなリスト形式に見えることからこの名がつきました。

ヴォイニッチ手稿のレシピセクション
レシピセクション。短い段落に分けられた文章が続き、星のような記号が各段落の冒頭に付されている(引用元:Wikimedia Commons / Yale Beinecke Library / Public Domain)

所有者の変遷――皇帝からイェール大学へ

ヴォイニッチ手稿の歴史を追うと、ヨーロッパの知の歴史そのものが浮かび上がってきます。

確認できる最古の所有者は、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世(在位1576〜1612年)です。皇室の帳簿には、1599年にルドルフ2世がこの手稿を600ドゥカート(現在の価値で数千万円相当)で購入したという記録が残っています。ルドルフ2世はオカルトや錬金術に強い関心を持つ人物として知られ、この手稿を13世紀の学者ロジャー・ベーコンの作品だと信じていたとされています。

その後、手稿はプラハの錬金術師ゲオルク・バレシュの手に渡りました。バレシュはこの手稿の解読に取り憑かれ、1639年にローマの博学者アタナシウス・キルヒャーに手紙を送って助けを求めています。この手紙が、手稿の存在を示す最古の確実な文書記録です。

その後、手稿はイエズス会の蔵書に加えられ、数百年の間、ほぼ忘れ去られていました。

転機が訪れたのは1912年。ポーランド出身の古書商ウィルフリッド・ヴォイニッチが、イタリア・フラスカティ近郊のヴィッラ・モンドラゴーネ(イエズス会所有の別荘)で大量の古書とともにこの手稿を発見・購入しました。手稿はこの人物にちなんで「ヴォイニッチ手稿」と名づけられます。

その後、複数の所有者を経て、1969年にイェール大学バイネキ図書館に寄贈され、現在に至っています。

ヴォイニッチ手稿の折り畳みページ
手稿に含まれる折り畳みページ。複数の植物が一枚に描かれた横長の構成(引用元:Wikimedia Commons / Yale Beinecke Library / Public Domain)

解読の歴史――天才たちが敗れた暗号

ヴォイニッチ手稿の解読には、歴史上有数の頭脳が挑んできました。

ウィリアム・フリードマンは、第二次世界大戦中に日本の「パープル暗号」解読チームを率いたアメリカの暗号解読の第一人者です。彼は1945年から長年にわたってヴォイニッチ手稿の研究に取り組みましたが、最終的な結論は「これは人工言語(constructed language)で書かれた可能性がある」という仮説にとどまりました。

イギリスの暗号解読者ジョン・ティルトマンも、第一次・第二次大戦で活躍した伝説的人物ですが、やはり解読には至りませんでした。

つまり、世界大戦で敵国の最高機密暗号を破った天才たちですら、ヴォイニッチ手稿を読むことはできなかったのです。この事実が、この手稿の異常さを最も雄弁に物語っています。

現代の研究――AIとデータサイエンスの挑戦

21世紀に入り、コンピュータとAI技術の進歩によって、新たなアプローチが次々と試みられています。

2014年に実施されたマルチスペクトル撮影の成果が2024年に初めて公開・分析されました。人間の目に見えない波長の光を使って手稿をスキャンする技術により、以前の所有者による書き込みや解読の痕跡が新たに発見されました。ウィルフリッド・ヴォイニッチが手に入れる前に、錬金術師が解読を試みた署名が浮かび上がったのです。

2024年のブリュワーらの研究では、オーストラリアのマッコーリー大学の研究チームが、手稿の主題のひとつが「中世ヨーロッパにおける女性の性と生殖」であるという仮説を発表しました。同時代のバイエルンの医師ヨハネス・ハートリーブが、避妊や堕胎に関する記述には暗号を使うべきだと述べていたことに着目した研究です。

また、2025年には『Cryptologia』誌に、ヴォイニッチ手稿が「暗号」によって作られた可能性を示す新たな研究が掲載されました。

日本でも、2024年に安形麻理・安形輝による『ヴォイニッチ写本 世界一有名な未解読文献にデータサイエンスが挑む』(星海社)が刊行され、深層学習モデルを用いた文字分布・文法構造の分析が行われています。

これらの研究により、少なくともヴォイニッチ手稿は「でたらめ」ではなく、何らかの意味を持つ文書であることが統計的に示されつつあります。しかし、完全な解読にはまだ程遠いのが現状です。

主要な仮説――誰が何のために書いたのか

ヴォイニッチ手稿をめぐっては、数多くの仮説が提唱されてきました。主なものを紹介します。

暗号説
最も伝統的な仮説です。既知の言語で書かれた内容を、何らかの暗号体系で変換したというもの。しかし、既知のどの暗号技法を適用しても解読に成功した例はありません。

人工言語説
ウィリアム・フリードマンが提唱した仮説で、エスペラントのような人工的に作られた言語で書かれているという説です。ヴォイニッチ文字の統計的特徴がこの仮説と部分的に一致することが指摘されています。

精巧なでたらめ説
意味のある内容は一切なく、それらしく見せかけた「偽書」であるという説です。しかし、2011年の年代測定や統計分析の結果から、この説は大きく後退しています。ヴォイニッチ文字には自然言語に見られるのと同様の統計的法則(ジップの法則など)が確認されており、完全なでたらめとは考えにくいとされています。

女性の医学書説
2024年のブリュワーらの研究による最新の仮説です。中世ヨーロッパでは、女性の身体に関する知識は「秘密」として扱われることが多く、暗号化して記録する動機が十分にあったと論じています。手稿に描かれた裸の女性や植物(薬草)の図がこの説と整合するとされています。

なぜ600年も解読できないのか

これほど多くの天才が挑んでも解読できない理由として、いくつかの要因が考えられています。

第一に、「ロゼッタ・ストーン」がないことです。古代エジプトのヒエログリフが解読できたのは、同じ内容がギリシャ語でも書かれたロゼッタ・ストーンが発見されたからです。ヴォイニッチ手稿には、既知の言語との対訳が一切見つかっていません。

第二に、文脈の手がかりが乏しいことです。描かれた植物が実在のものと一致しないため、「この単語はこの植物を指しているはずだ」という推測の出発点すら得られません。

第三に、暗号なのか言語なのかすら分かっていないことです。暗号解読と言語解読では、必要なアプローチがまったく異なります。どちらの道で攻めるべきか定まらないまま、研究者たちは手探りを続けているのです。

まとめ――人類最大の知的パズル

ヴォイニッチ手稿は、600年以上にわたって人類の知性に挑戦し続けている、まさに「最大の知的パズル」です。

15世紀の誰かが、なぜこれほどの労力をかけて、誰にも読めない文字で、この世に存在しない植物を描いた本を作ったのか。その答えは、いまだ闇の中です。

しかし、AIやデータサイエンスの進歩により、少しずつ霧が晴れつつあるのも事実です。もしかすると、私たちが生きている間にこの謎が解かれる日が来るかもしれません。

あなたは、ヴォイニッチ手稿に何が書かれていると思いますか?


🎬 こちらもチェック!

オカルト・都市伝説・未解決ミステリーをもっと深掘りしたい方は、YouTubeチャンネル「夜の都市伝説TV」もぜひご覧ください!

チャンネル登録もよろしくお願いします!
▶ 夜の都市伝説TV(YouTube)