結局モノリスとは何だったのか——5年間追い続けた「未解決事件」の全貌

最終更新日 1日 ago by OKAYAMA

2020年11月、アメリカ・ユタ州の砂漠で発見された謎の金属柱「モノリス」。映画『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせるこの物体は、世界中のメディアを騒がせ、やがて245体以上のコピーが地球規模で出現する異常事態に発展しました。

あれから5年以上が経った今、結局モノリスとは何だったのでしょうか。犯行を主張したアーティスト、それを否定する証拠、数ヶ月に及ぶ調査記者の追跡——すべてが行き止まりに終わった「未解決事件」の全貌を、最新の情報とともに振り返ります。

発端——ユタ州の砂漠に「4年間」放置されていた金属柱

ユタ州の砂漠に出現したモノリスの実物写真
ユタ州の砂漠で発見されたモノリス(出典: Patrick A. Mackie / Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)

2020年11月18日、ユタ州野生生物資源局の職員がヘリコプターでビッグホーンシープの個体数調査を行っていたとき、赤い岩の峡谷の中に異様な光を放つ物体を発見しました。

高さ約2.9メートル(9.5フィート)の三角柱。素材はステンレス鋼またはアルミニウムの板をブラインドリベットで接合したもので、内部は空洞。非磁性体であることも確認されました。基部はシリコンコーキングで密封され、岩盤にコンクリートソーで切り込みを入れて固定されていました。

驚くべきは、この物体がいつから存在していたかです。Google Earthの衛星画像を解析した結果、モノリスは2016年7月7日から10月21日の間に設置されたことが判明。つまり、4年以上にわたって誰にも気づかれずに砂漠の中で立ち続けていたのです。

8分間の撤去劇——「痕跡を残すな」の精神で消えたモノリス

モノリス発見後に見物客が殺到し植生が破壊された現場
モノリス発見後、見物客の車両が殺到し植生が破壊された(出典: Bureau of Land Management, パブリックドメイン)

発見から10日後の11月27日夜、モノリスは忽然と姿を消しました。

撤去したのは宇宙人でもなければ政府機関でもありません。ユタ州モアブ在住のプロクライマー、アンディ・ルイスとその友人3名でした。彼らは手押し車を使い、わずか8分で構造物を解体・搬出。ルイスは撤去の理由を「Leave No Trace(痕跡を残すな)」の精神だと説明しました。

モノリスの発見後、GPSマッピングソフトで位置を特定した見物客が砂漠に殺到し、野生生物の保護区域が荒らされていたのです。ユタ州当局も「どの惑星から来たものであれ、連邦管理地への無許可設置は違法」と皮肉交じりのコメントを出していました。

世界で245体以上——連鎖的に出現したコピーモノリス

ドイツ・ドルトムントに出現したモノリスのコピー
ドイツ・ドルトムントに出現したモノリスのコピー(出典: Emergency doc / Wikimedia Commons, CC BY 4.0)

ユタ州のモノリスが報道された直後から、世界各地で似たような金属柱が次々と出現しました。その数は最終的に245体以上に達しています。

主な出現場所は以下の通りです。

  • 2020年11月 ルーマニア・ピアトラネアムツ(数日後に消失)
  • 2020年12月 カリフォルニア州アタスカデロ
  • 2020年12月 イギリス・ワイト島
  • 2020年12月 オランダ・フリースラント州
  • 2020年12月 コロンビア、スペイン、ポーランドなど多数
  • 2024年6月 ネバダ州ラスベガス近郊ガスピーク
  • 2024年7月 コロラド州
  • 2025年3月 ラスベガス郊外セブン・マジック・マウンテンズ付近

これらのコピーの多くは明らかに便乗した模倣品であり、素材や精度はユタ州のオリジナルに劣るものがほとんどでした。しかし、世界中で同時多発的に「謎の金属柱を砂漠や山中に設置する」というムーブメントが起きたこと自体が、ひとつの社会現象として異例です。

犯行声明と撤回——「やったのは俺たちだ」と言ったアーティスト集団

モノリスの正体をめぐって、最も注目を集めたのが「The Most Famous Artist」というアーティスト集団の犯行声明でした。

2013年にロサンゼルスで結成されたこの集団の創設者マティ・モーは、Instagramに「monolith-as-a-service.com」というキャプションとともにモノリスの写真を投稿。フォロワーからの「あなたたちがやったの?」という質問に「私たちのことを指しているなら、イエス」と繰り返し返答しました。

さらに、彼らはモノリスのレプリカを1体45,000ドル(約670万円)で販売開始。ブロックチェーン証明書付きの「本物の宇宙人モノリス」として、3体限定で売り出しました。

しかし、この主張には致命的な矛盾がありました。

マティ・モーが公開した設計レンダリングの日付は2020年8月。しかし、衛星画像が示す設置時期は2016年です。4年のズレを説明できる証拠は何もありませんでした。後にモーはMashableの取材に対して「法的な問題があるため詳しくは言えない」と曖昧な回答に終始し、最終的には「自分がやったとは言っていないが、やっていないとも言っていない」という禅問答のような発言で立場を曖昧にしました。

メディアが検証した結果、The Most Famous Artistの主張は「話題に便乗した自己宣伝」だった可能性が高いと結論づけられています。

故人アーティスト説——ジョン・マクラッケンの亡霊

もうひとつの有力な説が、ミニマリストアーティストのジョン・マクラッケンの作品ではないかというものです。

マクラッケンは生前、金属的な光沢を持つ板状の彫刻作品で知られた芸術家です。ニューヨークの名門ギャラリー「デヴィッド・ツヴィルナー」がニューヨーク・タイムズに対して「マクラッケンの作品に似ている」とコメントしたことで、この説は一気に広まりました。

しかし、マクラッケンは2011年に死去しており、衛星画像が示す設置年は2016年。ギャラリー側もその後「マクラッケンの作品ではなく、おそらく別のアーティストによるオマージュだろう」と発言を撤回しています。

数ヶ月の調査が辿り着いた「行き止まり」

モノリス事件 未解決の調査資料
※イメージ画像

アメリカの地方紙デゼレト・ニュースの記者コリン・レナードは、2023年2月に公開した長編記事で、数ヶ月にわたる独自調査の結果を報告しています。

レナードが追った主な手がかりは2つ。

ひとつは「ブレイディ」と名乗る人物の証言です。彼はビジネスマンたちと共に2019年にバイラルマーケティングの実験としてモノリスを建てたと主張しました。しかし、レナードの検証では、ブレイディが語った不動産リース記録は存在せず、距離に関する説明も不正確で、提供された写真の撮影場所もモノリスの設置場所ではなくレイクパウエル付近の高速道路沿いでした。

もうひとつは、サンフランシスコ在住の「ダン」という人物。彼はベイエリアのレイブシーンを通じてモノリスの作者を知っていると語り、2016年頃に「世界中で瞑想の場を作る神秘的なレイバー」について聞いたことがあると話しました。しかしダンはパンクロックの精神を理由にそれ以上の協力を拒否し、調査は再び暗礁に乗り上げました。

連邦土地管理局(BLM)の特別捜査官リッチ・ロイドも独自に調査を続けていますが、責任者を特定できていません。無許可設置は連邦軽罪Aクラスに該当するため、公式な捜査は今も続いています。

ジョージア・ガイドストーンとの不気味な共鳴

ジョージア・ガイドストーン 2022年爆破前の実物写真
2022年に爆破される前のジョージア・ガイドストーン(出典: Ashley York / Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)

モノリスを語るうえで避けて通れないのが、ジョージア・ガイドストーンとの関連です。

1980年にジョージア州エルバート郡に建てられたこの巨大な花崗岩のモノリスには、8つの現代言語で「10の指針」が刻まれていました。その中には「人類の人口を5億人以下に維持せよ」という不穏な一文が含まれており、「新世界秩序」の陰謀論と結びつけられてきました。

依頼者は「R.C.クリスチャン」という偽名を使い、正体は今も不明です。建設費は当時10万ドル以上(現在の価値で約40万ドル)。この偽名は秘密結社「薔薇十字団」との関連を指摘する声もあります。

そして2022年7月6日午前4時、ガイドストーンは何者かによって爆破されました。監視カメラには、爆発物を設置して逃走する人物と、直後にサンルーフ付きのシルバーのセダンが走り去る映像が残されていました。ジョージア州捜査局(GBI)が捜査を主導しましたが、2024年7月時点でも犯人は特定されていません。残った石柱は安全上の理由からその日のうちにすべて撤去されました。

作った者が不明のまま建てられ、壊した者が不明のまま消えた——ガイドストーンもユタ州のモノリスも、「誰が・なぜ」という根本的な問いだけが宙に浮いたまま残されています。

2024〜2025年——モノリスは「商品」になった

2024年6月、ラスベガス近郊のガスピークで再びモノリスが発見されました。地元の捜索救助ボランティアが砂漠国立野生生物保護区内で発見したもので、鉄筋とコンクリートで地面に固定されていました。警察は撤去しましたが、設置者は「不明」のまま。数日後にはコロラド州でも同様のモノリスが見つかりました。

そして2025年3月21日、ラスベガス南方のアートインスタレーション「セブン・マジック・マウンテンズ」付近に、高さ約3.6メートル(12フィート)のモノリスが一夜にして出現。このモノリスの側面にはQRコードが刻まれており、スキャンすると暗号資産(仮想通貨)関連のウェブサイトに接続されることが判明しました。

もはやモノリスは「宇宙からのメッセージ」ではなく、マーケティングツールとして利用される段階に入ったのです。The Most Famous Artistが45,000ドルで販売したレプリカも、ある意味ではこの流れの先駆けでした。

結局、モノリスとは何だったのか——3つの仮説

5年以上の時を経て浮かび上がった、最も有力な3つの仮説を整理します。

仮説1:無名アーティストによるランドアート

最も合理的な説明です。ユタ州のオリジナルモノリスは、2016年の設置当時から「発見されること」を意図していなかった可能性があります。ダンの証言にある「瞑想の場を作るレイバー」という話と、ミニマリズム美術との接点を考えると、個人またはごく少人数のグループによるランドアート(大地に作品を設置する芸術運動)だった可能性が高いとされています。

名乗り出ない理由は、連邦管理地への無許可設置が軽罪に問われるためです。

仮説2:計算されたバイラル実験

2016年に設置し、いずれ偶然の発見によってバイラルに拡散することを狙った長期的な社会実験という見方もあります。コロナ禍で人々が非日常的なニュースに飢えていた2020年秋というタイミングは、偶然にしては出来すぎていた——と指摘する声もあります。

ただし、4年間放置してバイラルを狙うという戦略はあまりに非効率であり、この仮説には弱点もあります。

仮説3:答えがないことに意味がある

ニューヨーク・タイムズは「その出自が不明であることが、心地よい不確実さの感覚を提供している」「誰が作ったか分かれば、そのオーラと力を失うだろう」と評しました。

モノリスの本質は「何であるか」ではなく、「何であるか分からない」ことそのものにあるのかもしれません。宇宙人説、陰謀論、アート——人々がそこに何を見出すかは、その人自身の世界観を映し出す鏡になっています。

まとめ——モノリスが暴いた「人間の習性」

ユタ州のモノリスから5年以上が経ち、事態は明確になるどころか、ますます混沌としています。犯行を主張したアーティストは嘘をついていた可能性が高く、故人アーティスト説もギャラリーが撤回。調査記者は数ヶ月を費やして行き止まりに辿り着き、連邦捜査官も犯人を特定できていません。

一方で、モノリスは世界中で模倣され、45,000ドルの商品になり、暗号資産の広告塔になりました。謎は解けないまま、その「謎であること」自体が消費されていったのです。

モノリスが本当に暴いたのは、宇宙の神秘ではなく、「答えのない問いに意味を見出さずにいられない」という人間の習性だったのかもしれません。

参考文献