最終更新日 14時間 ago by OKAYAMA
もし、亡くなった祖父の声で「元気にしているか?」と問いかけられたら、あなたはどう感じるでしょうか。答えを返したくなるでしょうか。それとも、ゾッとするでしょうか。
かつてSFや心霊話の領域に属していた「死者との対話」が、現実のテクノロジーとして静かに——しかし確実に——私たちの生活に近づいています。AIが故人の声・表情・話し方を再現し、遺族がスクリーン越しに「会話」できるサービスが、すでに世界中で提供されはじめているのです。
これは悲しみを癒す新技術なのか。それとも、死者を現世に縛りつける「デジタルの呪縛」なのか。あるいは——昔の人が語った「幽霊」と、本質的に何かが違うのでしょうか。
実在するデジタル故人サービス——すでに「会話」は始まっている
「デジタル故人」技術の代表格として知られるのが、米国発のHereAfter AIです。このサービスは、利用者が生前に自分の思い出や体験をインタビュー形式で語り、その音声データをもとに「ライフストーリー・アバター」を作成します。家族はスマートフォンやウェブを通じて、故人のアバターに話しかけることができる仕組みです。同社は「AIが事実でないことを作り上げることがないよう、正確さと誠実さを重視している」と説明しており、あくまで本人が生前に語った内容の範囲内で応答するよう設計されているといいます。
一方、StoryFile(ストーリーファイル)は、20台以上のカメラで本人を撮影し、250もの質問への回答を収録したうえで、AIが最適な映像を選んで応答する「インタラクティブな映像会話システム」を提供しています。2022年には、ホロコースト記念館の共同設立者であるマリナ・スミス氏が死去した際、彼女自身が生前に収録したデータをもとに作成されたアバターが自身の追悼式に「出席」し、参列者と対話したことが広く報じられました。

これらのサービスは、あくまで本人の事前同意と協力を前提とした「デジタル遺産」としての色合いが強いものです。しかしすでに、同意なしに故人のデータからアバターを作成しようとする動きも出てきており、倫理的な境界線はあいまいになりつつあります。
中国・韓国で広がる「デジタル復元」ビジネス
アジアでは、このテクノロジーへの需要がとりわけ急速に拡大しています。
中国では、AIを使った故人の「デジタル復元」がひとつのビジネスとして成立しており、複数の企業がサービスを提供していると報じられています。MIT Technology ReviewやNPR(米国公共ラジオ)などが2024年に伝えたところによれば、わずか30秒分の映像・音声素材からでも故人のアバターを生成できると主張する企業も存在し、費用は約700〜1,400ドル(日本円で10〜20万円程度)からとされています。清明節(日本のお盆にあたる祝日)を機に注目が集まり、2023年に動画プラットフォームのBilibiliで著名インフルエンサーがAIで復元した祖母との会話動画を公開したことが大きな話題を呼んだとも伝えられています。

韓国でも、スタートアップ企業DEEPBRAIN AIが故人を再現するバーチャルヒューマンサービス「Re;memory(リメモリー)」を提供していると日本語メディアで報じられています。スタジオに設置された大型スクリーンを通じて故人のアバターと対面できる形式で、1人のアバター作成に数百万円規模の費用がかかるとも報告されています。
また、韓国では2020年12月に放送された音楽番組「AI音楽プロジェクト―もう一度」において、故人となったアーティストの姿と声がAIで復元されてステージに登場し、大きな反響を呼んだことも知られています。
Microsoftの特許と、テクノロジー企業の「本音」
デジタル故人技術をめぐる議論を一気に加速させた出来事があります。2021年1月、マイクロソフトが「特定の人物——故人、生存者、架空のキャラクターを含む——を模したチャットボットを作成する技術」の特許を取得したと報じられたのです。
この特許によれば、SNSの投稿・メッセージ・音声データ・写真といった「ソーシャルデータ」を収集・分析し、その人物の口調や話し方を学習したチャットボットを構築できるとされていました。音声合成や3Dモデル生成にも言及されていたといいます。

CNNやワシントン・ポストなどが「あまりにも不気味すぎる」として大きく取り上げたこのニュースに対し、マイクロソフトのAIプログラム担当ゼネラルマネージャーであるティム・オブライエン氏は「実用化の計画はない」と述べ、自身も「確かに不気味だ」とコメントしたと報じられています。しかし、技術的に「できる」ことと「やらない」ことの間の距離は、決して遠くはない——そう感じた人は少なくないでしょう。
「デジタル幽霊」は本当に故人なのか——倫理と哲学の問い
研究者や倫理学者たちは、こうした技術の急速な普及に対して、慎重な姿勢を崩していません。
英国ケンブリッジ大学のLeverhulme Centre for the Future of Intelligenceの研究チームは2024年、「故人のAIチャットボットによる意図しない『ハンティング(幽霊のつきまとい)』を防ぐための安全基準が必要だ」と訴える論文を発表しました。研究チームは、故人の同意なしにボットが作られるリスク、広告目的での悪用、感情的に脆弱な遺族が依存状態に陥る可能性などを指摘しています。また、AIとの対話であることを常に明示すること、利用を終了できる「デジタル葬儀」のような終了プロトコルの整備を求めています。

古来、人間は死者と「繋がろう」としてきました。霊媒師、交霊術、墓参り、遺影に向けて語りかけること——形は違えど、死者への思慕は普遍的な人間的営みです。AIによるデジタル故人は、その最新形態にすぎないとも言えます。しかし、過去の「幽霊」が一方的に「現れる」存在だったのに対し、デジタル故人は「呼び出せる」「会話できる」「いつでもアクセスできる」という点で、根本的に異なる性質を持ちます。
その「呼び出せる幽霊」は、死者を安らかにするのか。それとも、生者を縛るのか。
生者のための技術か、死者への礼節か——問いはまだ答えを待っている
デジタル故人技術を取り巻く問いは、テクノロジーの話にとどまりません。それは「死とは何か」「故人とは何者か」「悲しみをどう受け入れるか」という、人類が何千年もかけて向き合ってきた問いに直結しています。
AIが作り出した「故人」に慰められたと語る遺族がいます。一方で、「それは本当の祖父ではない」と感じて傷つく人もいるでしょう。どちらが正しいとは言えません。文化や宗教、個人の価値観によって、答えは無数にあります。
ひとつ確かなのは、この技術はすでにここにあり、問いを立てる猶予は長くないということです。私たちは今、「死者をどう扱うか」という問いを、テクノロジー企業の判断に丸ごと委ねてしまう前に、社会として議論しなければならない時代に立っています。
デジタル故人は「幽霊」なのか? それはわかりません。しかし少なくとも、生者の心に何かを宿らせる力を持っているという点では——あの古い怪談の「幽霊」と、どこか似ているような気もします。